2014年12月17日水曜日

客「ボクがよく行くパン屋さんは、少し変わっている」2

47: :2013/11/27(水) 23:45:34.54 ID:
第六話『腹パン』



客(あ~お腹空いた。今日はどのパンにしよっかな……)カチカチ…

ガラッ……!

父「こんにちは」

娘「こんにちは~!」

店主「いらっしゃい!」

父「さっそくだが、ワシと娘の腹部にパンチ──いわゆる“腹パン”をしてほしい!」

店主「1000円いただきます!」

客(ええええええええええっ!?)
51: :2013/11/27(水) 23:50:38.24 ID:
客(どういうことだ? マゾなのか、この親子は!?)

店主「んじゃ、まず娘さんから──」

店主「むんっ!」シュッ

ドズゥッ……!

娘「ううっ……!」

娘「治ったわ! あんなに苦しかった胃もたれがすっかり治ったわ!」パァァ…

客(えぇ~~~~~!? 店主さんって、こんなこともできるのか!)

店主「次はお父さん」

店主「どりゃっ!」シュッ

ドズゥッ……!

父「がはっ……!」

父「いやぁ~、すっかり重度の胃潰瘍が治ったよ!」パァァ…

客(す、すごいな!)
53: :2013/11/27(水) 23:56:22.88 ID:
客「いやぁ~、さっきのすごかったですね!」

店主「ん、そうかい?」

客「どんな病気でも治せるんですか?」

店主「お腹に関連する病気ならな!」

客「あ、あの……じゃあボクにもやってくれませんか?」

店主「う~ん、やめといた方がいいと思うぞ?」

客「お願いします! 1000円払いますから!」パサッ…

店主「そこまでいわれちゃ断る理由もないな」

店主「とうっ!」シュッ

ドズゥッ……!

客「おぐぅっ!」
54: :2013/11/27(水) 23:59:40.95 ID:
客「い、痛いっ……!」

客「痛いんですけど!?」ゲホゲホッ

店主「あ~……やっぱりな」

店主「健康な人が俺の腹パン喰らったら、ただ痛いだけなんだよ」

客「な、なるほど……」

客(1000円払って、ただ痛い目にあうだけとは……いたた……)





                             ─ 第六話 おわり ─
56: :2013/11/28(木) 00:06:38.23 ID:
第七話『短パン』



─ パン屋 ─

客(今日はどのパンにしようかな……)カチカチ…

客(たまにはフランスパンにするか!)

客(ちょっと歯に悪そうな、カリッカリッに固いのがボクの好みなんだよな~)

客「──ん?」

客「店主さん、このフランスパンだけ……他のに比べてずいぶん短いですね」

店主「ああ、それは短パンさ」





                             ─ 第七話 おわり ─
57: :2013/11/28(木) 00:12:32.33 ID:
第八話『順風満パン』



─ パン屋 ─

客(ハァ~……最近ツイてないな)

客(こんな日は、あまぁ~いクリームパンでも……)カチカチ…

ガラッ……!

オタク「あ、あのっ……!」

客(うおっ!?)

店主「いらっしゃい!」

オタク「順風満帆になれるパンを売ってほしいんだ!」
58: :2013/11/28(木) 00:15:32.53 ID:
店主「フフフ、いいだろう!」

店主「名づけて順風満パン、これを食えば順風満帆だ!」

オタク「ありがとう!」

オタク「さっそく家に帰って、食べさせてもらうよ!」

客(順風満パン……そういうのもあるのか!)

客(ホントに色んなパンがあるんだな、この店って)
59: :2013/11/28(木) 00:20:19.35 ID:
─ オタクの自宅 ─

オタク(ウフフ……順風満パンを食べたぞ!)モグモグ…

オタク(これでボクは望み通り、ネットゲームの世界で王者になれるはず!)

オタク(──ん?)

オタク(あれ!? なんかパソコンの調子がおかしいぞ!?)

オタク(これじゃネットができない!)

オタク(ちょっと待ってくれ!)

オタク(これのどこが順風満帆なんだァ~~~~~!?)
61: :2013/11/28(木) 00:25:21.05 ID:
─ パン屋 ─

オタク「ひどいじゃないか!」

オタク「あれからというもの、パソコンの腕が認められて」

オタク「大手企業で働かなきゃならなくなったし!」

オタク「二次元しか興味ないのに三次元の彼女ができちゃったし!」

オタク「ネトゲのお金にしか興味がないのに、現実のお金ばかり増えるし!」

オタク「最近は忙しくて満足にゲームもやれてないよ!」

オタク「元に戻してくれぇ~」シクシク…

店主「悪いな、一度食っちまったら無理なんだ」

オタク「そんなぁ~……」シクシク…

客(なにが幸せか不幸だなんて、分からないもんだなぁ)

客(やっぱり、自分の力で順風満帆になるのが一番だってことか)





                             ─ 第八話 おわり ─
63: :2013/11/28(木) 00:31:42.62 ID:
第九話『ジーパン』



─ パン屋 ─

客(最近はオシャレなパンや菓子が増えたよな~)

客(このカヌレってやつ、買ってみるか)カチカチ…

ガラッ……!

若者「ちわっす! オッサン、ジーパンくれよ! ワイルドなボロボロなヤツ!」

店主「いいぞ! ただし、今はジーンズって呼ぶんだぞ!」

若者「え、マジ!?」

客(今はデニムって呼ぶらしいけどな……。ボクも詳しくはないけど)
65: :2013/11/28(木) 00:35:35.60 ID:
─ 若者の自宅 ─

若者「なんでぇ! ちっともボロボロじゃねえじゃん!」

若者「まぁいいや。だったら自分でボロボロに──」スッ…

バキィッ!

若者「ぶべっ!? ──な、なにしやがる!?」

ジーパン「愚か者がっ!」ヒラヒラ…

ジーパン「ワシは人間にダメージを与えるのが仕事じゃ」

ジーパン「ワシをダメージジーンズにしたくば……ワシに勝つことじゃな、小僧ッ!」

若者「…………!」

若者「おもしれぇっ、絶対勝ってやるッ!」シュッ

ジーパン「ほう、なかなか見所がありそうな若造じゃ!」ブオンッ

ドゴォッ! バキィッ! ガッ! ゴガッ! バシィッ!
67: :2013/11/28(木) 00:39:42.74 ID:
同時刻──

─ トレーニングジム ─

マッチョ「!」ピクッ

女子高生「!」ピクッ

マッチョ「お前も感じたか!?」

女子高生「ええ、感じたわ……」

女子高生「近い将来……私たちの新たな好敵手が生まれるという予兆を……!」

マッチョ「フハハ、実に楽しみだな!」





                             ─ 第九話 おわり ─ 


69: :2013/11/28(木) 00:45:33.93 ID:
第十話『ルパン』



─ パン屋 ─

客(この店には色んなパンがあるように──)

客(この店って色んな客が来るから、店主さんも大変だろうなぁ)カチカチ…

客「店主さん」

店主「ん、なんだい?」

客「この店には色んなお客が来ますけど……一番大変だったのはどんなお客ですか?」

店主「う~ん、一番大変なのはまちがいなくあの件だろうな」

店主「ただし……俺が大変ってわけじゃないんだけどな!」

客「へ?」
71: :2013/11/28(木) 00:50:28.55 ID:
~ 回想 ~

店主「いらっしゃい!」

少女「おじちゃん、怪盗ルパンください」

店主「ルパン? オッケーだ! ルパン、こっちに来てくれ!」

ルパン「吾輩になにか用かね、可愛いお嬢さん?」ザッ…

少女「え~とね、え~とね……」

少女「日本中の、貸したまま持っていかれちゃったゲームやマンガ、を」

少女「全部、盗み返して持ち主に返してあげて欲しいの!」

ルパン「!」

少女「ムリ?」

ルパン「吾輩に盗めぬものなどない!」

ルパン「よかろう……やってみせよう!」

少女「ありがとう!」
75: :2013/11/28(木) 00:54:32.97 ID:
~ 現在 ~

店主「…………」

客「…………」

店主「あれから数年になるが──」

店主「ルパンは今も、借りパクされたゲームや漫画を盗み返して持ち主に返すために」

店主「日本中を飛び回ってるはずだ……」

客「たしかに、一番大変ですね……」

客(ルパンすら苦労するほど、借りパクされてるゲームや漫画は多いってことか……)





                             ─ 第十話 おわり ─
79: :2013/11/28(木) 01:00:40.03 ID:
第十一話『乾パン』



─ パン屋 ─

客(地震や台風……災害って怖いよな)カチカチ…

客(もし大災害に見舞われたら、こうしてパンを選ぶこともできなくなるんだろうな)

ガラッ……!

女「こんにちは」

店主「いらっしゃい!」

女「乾パンをくださいな。非常食として備蓄しとこうと思って」

店主「毎度あり! なら、とっておきの乾パンを紹介するよ!」
80: :2013/11/28(木) 01:04:24.14 ID:
─ 女の自宅 ─

女「へぇ、けっこうおいしそうな乾パンね」

乾パン「よう!」

女「へ!?」

乾パン「ふむふむ」キョロキョロ…

乾パン「アンタの部屋、地震対策がなってねぇな……」

女「な、なんで乾パンがしゃべるのよ!?」

乾パン「オレは被災した時だけじゃなく、防災にも役立つ非常食なんだ!」

乾パン「ビシビシ鍛えてやっから、覚悟しろい!」

女「そ、そんなぁ……」
82: :2013/11/28(木) 01:09:02.72 ID:
数時間後──

女「家具は固定したし、家具の上に割れやすいものを置かないようにしたし」

女「食器棚には皿が飛び出してこないよう止め具をつけたし」

女「タンスも重いものを下に収納して倒れにくくしたわ」

女「これで大丈夫かしら……?」

乾パン「おう、ちったぁマシになったな!」

乾パン「んじゃ、オレは眠りにつかせてもらうぜい!」

乾パン「なにかあったら、オレを食ってくれよな!」

女(ふう、やっと静かになった……)

女(でも、対策したことで少し気が楽になったわね……)

女(これでいい男に出会えれば完璧だわ、なぁ~んてね)
83: :2013/11/28(木) 01:13:20.00 ID:
─ 会社 ─

イケメン「やぁ、女さん」

女「あら、イケメンさん」

イケメン「最近の君は、なんだか自信に満ちあふれてて、魅力的だね」

女「あらそう?」

女(これも地震対策をしたおかげかしら……)

イケメン「あのさ……」

イケメン「よかったら今度の休日、一緒にデートでもどうだい?」

女「え!?」

女(イケメンさんが私を誘ってくれるだなんて……ビックリだわ)

女「ええ、喜んで!」
84: :2013/11/28(木) 01:19:08.91 ID:
─ 女の自宅 ─

女「フンフ~ン」

乾パン「そんなにめかしこんで、どうしたい?」

女「今日は、イケメンさんとデートなの!」

乾パン「…………」

乾パン「オイ、そいつと付き合うのはやめときな」

女「なんで?」

乾パン「オレの勘だ」

女「なにいってんの? バッカじゃないの!?」

女「アンタは災害のための存在であって、私のデートには関係ないでしょ!」

女「引っ込んでてよ!」

乾パン「…………」
87: :2013/11/28(木) 01:23:01.20 ID:
─ 街 ─

イケメン「次はあの店に寄ってみようか」スタスタ…

女「そうね!」スタスタ…

女(イケメンさんって、顔はいいけどあまり浮いた話を聞かないわよね)

女(それに、微妙にこわばった顔をしているし……)

女(せっかくのデートなのに、私とも微妙に距離を置いている……)

女(乾パンの勘を信じるわけじゃないけど、なにかあるのかもしれないわね)

イケメン「ん、どうしたんだい?」

女「い、いえ、何でもないわ!」
88: :2013/11/28(木) 01:27:41.43 ID:
─ 夜道 ─

イケメン「今日は楽しかったね」

女「ホントね。映画も面白かったし、お食事もおいしかったし……」

イケメン「…………」

イケメン「ところでボクには、秘密があるんだ」

イケメン「こんなところで悪いけど、打ち明けていいかな?」

女「かまわないけど……」

女(なにかしら……こんな誰もいないところで……?)

イケメン「実は──」
91: :2013/11/28(木) 01:33:04.83 ID:
イケメン「ボ、ボク、実は……」

イケメン「少しでも気が緩むと、貧乏ゆすりが出てきて」カタカタカタカタ…

女「へ!?」

イケメン「しかも、静電気がすごくって」パチパチ…

イケメン「多少化粧してるけど、ちょっとしたことで顔が真っ赤になって」カァァ…

イケメン「香水でごまかしてるけど、加齢臭みたいな体臭がするんだ!」ムワァ…

イケメン「こんなボクでよかったら……付き合って下さい!」バッ

女「あらまぁ……」

女(まさに、地震、雷、火事、親父だわ)

女(どうりで、顔がいいわりにあまりモテなかったわけね)

イケメン(やっぱり……ダメか……! ダメに決まってるよな……!)

女「──そうだわ!」

女「あなたにピッタリな人……いえ、ピッタリなパンを紹介してあげるわ!」

イケメン「え?」
93: :2013/11/28(木) 01:37:48.74 ID:
─ 女の自宅 ─

乾パン「おめえがイケメンか!? オレの主人が世話になったな!」

イケメン「は、はい」

イケメン(乾パンがしゃべった!?)

乾パン「ふむふむ」ジロジロ…

乾パン「地震、雷、火事、親父!」

乾パン「負の体質の四重苦……これもまた災害にはちがいねえ!」

乾パン「だが見たところ、どれもオレが指導すれば改善できる体質ばかりだ!」

乾パン「ビシビシ鍛えてやっから、覚悟しろよ!」

イケメン「はいっ!」

女「頑張って!」

乾パン(オレの嫌な予感は、コイツのミニ災害みたいな体質に反応してたんだな)

乾パン(やれやれ、とんだ取り越し苦労だったってわけかい)
94: :2013/11/28(木) 01:42:04.67 ID:
─ 街 ─

イケメン「驚いたよ!」

イケメン「たった一ヶ月足らずで」

イケメン「貧乏ゆすりも静電気もあがり症も体臭も、すっかり改善されたよ!」

イケメン「君とあの乾パン師匠のおかげだよ! 本当にありがとう!」

女「すごいでしょ! なんたって──」



─ 女の自宅 ─

乾パン「このオレは、災害の時のための非常食だからな!」





                            ─ 第十一話 おわり ─
97: :2013/11/28(木) 01:48:41.47 ID:
最終話『パン』



─ パン屋 ─

ガラッ……!

客「こんにちは」

店主「やぁ、いらっしゃい!」

店主「いつも来てくれて、ありがとう!」

客「ハハハ。ここのパンは美味しいので、つい来てしまいますよ」

客(今は他にお客さんはいないみたいだな)

客(それにしても、このパン屋さんは本当に変わってる)

客(店主さんも……売っているパンも……やってくるお客も)

客(なにも変わってない──つまり平凡なのはボクぐらいのもんだろうな)

客(たまには面白い注文をしてみたいけど、やっぱりボクは普通のままでいいや)
101: :2013/11/28(木) 01:54:21.25 ID:
店主「しっかしお客さん、ほとんど毎日のようにウチでパンを買ってくれるけど」

店主「生粋のパン党なんだねえ~」

店主「茶碗や炊飯器なんて、お客さんには縁のないものだろう?」

客「え?」

客「なにいってるんですか? ボクはバリバリのごはん党ですけど」

店主「え?」

客「え?」
104: :2013/11/28(木) 01:59:20.16 ID:
店主「あ……なるほど!」

店主「パンはあくまでオヤツで、三食とはまた別ってことか!」

客「いえ、ちがいますけど」

店主「……え?」

客「ボク──」

客「熱々のご飯にこの店で買ったパンを乗せて食べるのが、大好きなんですよぉ~!」

店主「…………」

店主(ウチによく来るこのお客さんは、少し変わってるなぁ……)





                             ─ 最終話 おわり ─

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