2014年12月17日水曜日

客「ボクがよく行くパン屋さんは、少し変わっている」 1

1: :2013/11/27(水) 22:14:28.20 ID:
客(ボクがよく行くパン屋さんは、少し変わっている)

客(なにがどう変わっているのかというと──)

客(……説明するよりは、実際にパン屋さんを見た方が早いだろう)

客(これからボクは、そのパン屋さんに行くのだが)

客(多分、その変わっている部分を見られるはずだ)

客(なぜなら、ボクがいる時は大抵変なことが起こるからだ)

客(そうこうしているうちに、パン屋に着いたぞ)

客(よし、入ろう)






第一話『フライパン』



─ パン屋 ─

ガラッ……!

客「こんにちは」

店主「やぁ、いらっしゃい!」

店主「いつも来てくれて、ありがとう!」

客「ハハハ。ここのパンは美味しいので、つい来てしまいますよ」

客(アンパン、食パン、カレーパン、ジャムパン、バターパン、チーズパン……)

客(この店にはどんなパンだって揃っている)

客(ボクはトングとトレイを持って、店内をうろうろしてる時がたまらなく好きだ)

客(もちろん、トングをカチカチするのも忘れない)カチカチ…



6: :2013/11/27(水) 22:22:32.38 ID:
すると──

ガラッ……!

マッチョ「…………」ヌゥ…

客(うわ、デカイ人だな)

店主「いらっしゃい!」

マッチョ「お願いだ、フライパンを売ってくれ!」

客「!?」

店主「フライパンか……ほらよ!」サッ

客「!?」
10: :2013/11/27(水) 22:25:55.91 ID:
マッチョ「金は払ったし、ここで食っていいか?」

客「!?」

店主「食いしん坊なヤツだな……もちろんいいぞ!」

客「!?」

マッチョ「いただきます!」ガブッ

バリバリ……! ムシャムシャ……!

客「!?」

店主「おお~、いい食いっぷりだねぇ!」

客「!?」
15: :2013/11/27(水) 22:30:35.96 ID:
マッチョ「いやぁ~、うまかったぁ!」

マッチョ「ごちそうさま!」ズンズン…

客(出て行った……)

客「あ、あの!」

店主「なんだい?」

客「ボクの目がおかしくなきゃ、今の人──フライパンを食べましたよね!?」

客「いったい、なにがどうなってるんですか!?」

店主「ハハハッ、驚かせて悪かったな!」

店主「あれは食べられるフライパンさ!」

店主「黒パン作る要領で、フライパンの形をしたパンを作ったんだよ!」

客「あぁ、なるほど……」

店主「ちなみに、こっちが本物のフライパンさ」
17: :2013/11/27(水) 22:34:44.56 ID:
客「あれ……。でも、このフライパン……柔らかいですよ?」フカフカ…

店主「えっ?」

店主「ホントだ……」フカフカ…

客「──ってことは、あのお客さん……」

客「本物のフライパンを食べちゃったってことですよね……?」

店主「そういうことだな……こりゃ参った!」

店主「ホームセンターに行って、新しいフライパン買ってこなきゃ!」

客「…………」

客(ボクがこの店は変わってるといった理由を、お分かりいただけただろうか)





                             ─ 第一話 おわり ─
22: :2013/11/27(水) 22:40:12.89 ID:
第二話『食パン』



─ パン屋 ─

客(今日はオーソドックスに、食パンにでもしようかな……)カチカチ…

ガラッ……!

女子高生「こんにちは!」

店主「いらっしゃい!」

女子高生「あのぉ……ステキな男の子と出会えるような食パンが欲しいの!」

店主「フフフ、食パンをくわえて角でぶつかろうって魂胆だな? いいだろう!」
23: :2013/11/27(水) 22:44:01.07 ID:
店主「ジャジャーン!」

店主「この食パンをくわえて朝走れば、ステキな男と出会えるかもしれないぜ!」

女子高生「ありがとう!」

女子高生「ちなみに食パンには、なにを塗ってもいいの?」

店主「基本的になんでもオーケーだが……イチゴジャムだけはやめときな」

女子高生「えっ、どうして?」

店主「ぶつかった時、血に見えちまうかもしれないだろ?」

女子高生「分かったわ!」

客(朝、食パンをくわえた女の子が、曲がり角で男と激突……古典的な少女漫画だ)

客(もっとも実際のところ、古い少女漫画にそんなシーンはない、らしいけど)
24: :2013/11/27(水) 22:47:32.66 ID:
翌朝──

─ 通学路 ─

女子高生「パンをくわえて、と」モグッ…

女子高生「遅刻、遅刻!」タタタッ

女子高生(お、あの曲がり角は出会いの予感がするわ!)タタタッ

ドンッ!!!

女子高生「いたた……っ!」ドサッ

女子高生(こ、この感触……この弾力、この圧力! まちがいないわ!)
27: :2013/11/27(水) 22:51:23.39 ID:
女子高生「あ、あの……っ!」

女子高生「私と突き合って下さいっ! 全力でっ!」

マッチョ「いいぜ……久々に骨のありそうな相手だ。かかってきやがれ!」

女子高生(この平和な現代社会で、やっと出会えた──)ザッ

マッチョ(好敵手ッ!)ザッ



ズドンッ……!





                             ─ 第二話 おわり ─
29: :2013/11/27(水) 22:57:30.21 ID:
第三話『アンパン』



─ パン屋 ─

客(頭脳パンか、こんなんで本当に頭がよくなるのかな?)カチカチ…

ガラッ……

教授「…………」スッ…

店主「いらっしゃい!」

客(──なんて思ってたら、頭がよさそうな人がきた!)

教授「店主君。少し話したいことがあるのだが、いいかね?」

店主「どうぞ!」
31: :2013/11/27(水) 23:02:59.86 ID:
教授「アンパンのあんこには“つぶあん”と“こしあん”があるが」

教授「この世の物質は、原子という小さな粒子、粒でできておる」

教授「もちろん、あんこも例外ではない。ゆえに“こしあん”も……」

教授「“つぶあん”としてしまっても、間違いとはいえないのではなかろうか?」

店主「たしかに!」

店主「しかし、全てを“つぶあん”としてしまうと──」

店主「色々と不便ですな!」

教授「たしかに!」

店主&教授「…………」ニヤッ…

教授「では、メロンパンをいただこうか」

店主「毎度あり!」

客(終わりかよ!)





                             ─ 第三話 おわり ─
33: :2013/11/27(水) 23:08:41.85 ID:
第四話『海パン』



─ パン屋 ─

ミ~ン……! ミ~ン……!

客(暑いなぁ……)

客(こんな日は、あっさりしたパンでも──ん?)カチカチ…

ガラッ……!

茶髪「へへへ……」

店主「いらっしゃい!」

茶髪「オレ、今度海行くんだ! 海パン売ってくれよ!」

客(なんでスポーツ用品店に行かないんだろう……)
34: :2013/11/27(水) 23:11:32.51 ID:
茶髪「しかも、とびっきりモテる奴をな!」

店主「だったら……これだろ!」パサッ

茶髪「うはっ、スッゲェ~! チョーかっこいいじゃん!」

店主「だろ!? これなら、浜辺でモテモテだ!」

茶髪「サンキュー、これ買わせてもらうぜ!」

店主「頑張れよ!」

客(普段の洋服ならまだしも)

客(海パンでモテるモテないが左右されるとは、とても思えないけど……)
35: :2013/11/27(水) 23:14:56.25 ID:
三日後──

─ 浜辺 ─

ワイワイ…… ガヤガヤ……

茶髪(へへっ、パン屋で買った海パンをビシッとはいて)ビシッ

茶髪(砂浜を歩くとするぜ!)ザクッザクッ

「お、あの海パンイケてね!?」 「かっこいい!」 「すっごぉ~い!」

茶髪(さすがだ……)

茶髪(みんなの視線がまぶしいぜ!)

茶髪(こりゃあ……いい女に出会える予感がするぜ!)
36: :2013/11/27(水) 23:18:58.48 ID:
水着女「すご~い、この海パン!」

金髪女「キャ~! もっと近くで見せて~!」

日焼け女「こんなカッコイイ海パン初めて見た!」

茶髪(オイオイ、マジかよ……女がどんどん寄ってきやがる!)

ビキニ女「その海パンちょうだい!」ガシッ

茶髪「え」

「ダメよ!」 「私がもらうっての!」 「この海パンはアタシのものよ!」

茶髪「ちょ、ちょっと待っ──」

ワァァァァァ……!

茶髪「やっ……」

茶髪「やめてくれぇぇぇぇぇ!」
38: :2013/11/27(水) 23:21:59.63 ID:
茶髪「…………」ボロ…

茶髪「…………」ピクピク…

茶髪(大勢の女にムリヤリ海パンを脱がされ、全裸で砂浜に一人放置されるなんて)

茶髪(無様すぎる……情けなさすぎる……!)グスッ…

茶髪「うっ……うっ……!」シクシク…

眼鏡女「あの……」

茶髪「なんだよ、アンタ!?」

茶髪「オレ、今全裸なんだ! 近づかないでくれ! 放っておいてくれ!」
39: :2013/11/27(水) 23:24:38.65 ID:
眼鏡女「このタオル……よかったら、使って下さい」スッ…

茶髪「!」

眼鏡女「これを腰に巻けば……パンツの代わりになると思いますから」

茶髪「あ……」

茶髪「ありがとう……!」



これが、運命の出会いだった。





                             ─ 第四話 おわり ─
40: :2013/11/27(水) 23:30:35.10 ID:
第五話『残パン』



─ パン屋 ─

客(お、ツイストパンが一個だけ残ってる)カチカチ…

客(残り物には福があるっていうからなぁ……今日はこれにするか)

ガラッ……!

客「!」

店主「いらっしゃい!」

男A「残パンを売ってくれ」

男B「残パンを売ってくれ」

客(残飯ならぬ、残パン!?)

客(二人の客が、同時に同じものを注文した! いったいどうなる!?)
42: :2013/11/27(水) 23:34:48.11 ID:
店主「ハイ、残パン!」スッ

店主「10円いただくよ!」

男A「ありがとう!」チャリン…

店主「ハイ、残パン!」スッ

店主「1万円いただくよ!」

男B「ありがとう!」パサッ…

客「!?」

客(え、え、10円と……1万円!?)

客(二人とも、満足げに帰っていったが……どういうことだ?)
44: :2013/11/27(水) 23:39:31.54 ID:
客「店主さん、聞きたいことがあるんですが」

店主「なんだい?」

客「さっき、二人とも同じものを注文したのに、なんで値段が全くちがったんですか?」

店主「ああ、あれかい!」

店主「片方の人はパンの耳が好きでね」

店主「ここで時々、ウチで切って残っちまったパンの耳を買っていくのさ」

客「そういうことですか。もう片方の人は?」

店主「あの人はある有名女優のマニアなんだ」

店主「で、その女優が食べ残したパンを買っていったってわけだ!」

客「どうりで値段が千倍もちがうわけだ……」

客(女優の残パンをどうやって入手したか気になるが、聞かないでおこう)





                             ─ 第五話 おわり ─ 

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